ゆきおおかみ少年 - りゅうのはかば -

根っこが張りめぐっている穴を彼は下へ下へとくだっていきました
根っこは太く足場としてはちょうどよく
まるで下へ降りる者のためにあるようでした

うっすらと赤くひかっていたまわりは次第に暗く
光をなくしていき、やがてまっくらになりました
まっくらな穴を根っこを頼りに下へ下へと下っていくと
穴は真下につづいていましたが少しずつ
斜めに傾きはじめ降りやすくなっていきました
彼はだまって穴を下っていきます

まっくらで斜め傾いていく穴を
根っこを頼りに下っていくととおくに白い光が見えました
下っていくとその光はどんどん大きくなっていきます
どうやらそれは出口のようでした
大きな穴はもう坂道くらいの傾きになっています
出口はどんどん近づき真っ白な光が穴の壁を照らしています
外は光で何も見えません
じっと目をこらして見てみますがやっぱり外の様子は見えません
とうとう出口までやってくるとまぶしさに目がくらみました
彼は目をつぶったまま穴の出口をすすむと
とつぜん地面が無くなり彼はまっさかさまに落っこちてしまいました
でもすぐそこにまた地面がありそこに落ちました
まわりはまぶしいくらいで彼はなかなか目を開けられませんでした
目が慣れてきてまわりと見渡すと
まわり一面真っ青な海でした
彼はその海の真ん中の真っ白い砂の小さな島に立っていました
その真っ白い砂の島はまるで海に映った月のようにまんまるでした
真っ白い砂の島と真っ青な海しかありませんでした
穴の出口はどこにもありませんでした

一面真っ青な海は空との境い目もよくわからないほどで雲ひとつありません
光は空から白い砂の島を照り付けています
でもなぜか空を見上げてもそこに太陽はありませんでした
「すごい風景だな」
くびに巻きついているヘビが驚きながらつぶやきました
彼は月のようにまんまるの砂の島をぐるりとまわりながら
真っ青な海と空を見つめて呆然としていました
「どうすればいいのかわからないね」
彼の気持ちを代弁するようにヘビがまたつぶやきます
海のどこを見てもこの砂の島以外に島は見えません
空を見ても空以外になにもありません
いままでただ下へ下へと進んできた彼は少し困りました
仕方ないので彼はそこへ座り込んでじっと海と空を見ることにしました
音も波もない砂浜で彼はじっと、ただじっとしていました

あれからどれくらい過ぎたでしょうか
彼は真っ青な空のまるい月をながめていました
青空に月があるなんて不思議だなと思いながら
ただそれをながめていました
なにもないただ真っ青な空に真っ白い月がまんまるで浮いていました
見えるものは空と月だけ
彼は月があんまりに綺麗に真っ白でまんまるなので
月ばかりをずーっと見ていました
彼は月をもっと近くで見たいと思いました
どんどんどんどん月に近づいていくと
月に小さな小さな点があるのが見えました
あの点はなんだろうともっと近づこうと思いましたが
なぜかそこからはなかなか進めず、その点がなんなのか見えません
ふと気付くと真っ青な空に小さなうす暗い影のようなものが見えました
その影はまっすぐ月に向かって動いていました
それはゆっくりですがまっすぐに月に向かっていました
その影が通った跡は空が少しゆがんでいるように見えました
影が月のすぐ近くにまで来たとき

「なにかくるようだぞ」
とヘビが耳元で言いました
はっとして目の前を見ると、波もない海がもり上がって砂浜に近づいていました
そのもり上がりはゆっくりと高く大きくなって水はしずかにサラサラと落ちました
それはながい、ながい首をもたげた竜が海から顔を出しました
竜はそのまま砂浜に前半身を乗り上げて前ヒレで体をささえるようにして彼の前に止まりました
「あたたかいねー」
竜は目をつむったまま空を仰ぎ見るような姿でゆっくりと野太い声でそう言いました
彼は口をあけたまま竜の高い首を仰ぎ見ていました
見ると竜の顔はしわが多くどうやら年老いた竜のようでした
ヘビが「プレシオサウルス・・・」とつぶやきました
彼はそれが竜の名前とはわかりませんでしたが
その音のひびきは少し好きだと思いました
竜はゆっくりとした動きでしずかに顔を彼に向けました
目は閉じられたままでした
竜はしばらくだまって彼を見つめていました
彼もまた竜を見ていました
とても大きいなぁと彼は思っていました
「誰かに会うのはとてもひさしぶりだ」
竜は口のはじっこをにゅーっと引っ張ってにんまり笑いながら言いました
「きみもこの先に進みたいのかい?」
竜は目をつむったままそう彼にたずねました
「先があるのか!」
ヘビは少し驚きながらそうたずね返しました
「こんな海の真ん中でどうしたらよいのか途方にくれていたところだ。
先にすすむ道があるなら教えてくれると助かる!・・・ん?
・・・きみも?ほかにも誰かここに来ていたということか?」
「うん。この砂島にはたまーにきみみたいに突然だれか出てきたりするんだ。
何人くらいかはもう忘れちゃったけど、ほんとうにたまーに出てくるんだよ。
どのくらいぶりかな、ひさしぶりすぎて忘れちゃったよ。」
竜はニコニコしながらそう答えました。目はつむったままでした
彼は竜のつむったままの目をずっと見ていました
しわが多い顔だなぁ、とそんなことをぼんやり考えていました

竜は大きく体をくねらせると背を彼に向け
「ほら、乗って。連れていってあげるよ」と言いました
彼はその大きな背によいせよいせとよじのぼりました
竜の背中はツルツルしているようで少しザラザラしていました
彼は竜の背中にへばりつき、ヘビはその彼の首に巻きつきました
「じゃあいこうか」と言うと竜はゆっくり、でもいきおいよく海の中へ潜りました
彼とヘビは竜の背に乗ったまま海の中へざぶんと入りました
彼が目を開けるとそこは真っ青に光る一面の光景でした
海面はさきほど竜がもぐるために揺らした波紋だけでそれ以外はまったく動いていません
まるで真っ青な青空のようでいて、その青さは見える光景すべてがそうでした
海の中はあたたかくとても気持ち良いものでした
彼はとても胸いっぱいな気持ちになりました
「あったかくてとても気持ちよいだろう、ぼくは海の中が大好きだよ」
竜はゆっくりと潜っていきながらそう彼に言いました
「こんなすごい光景ははじめて見た」とヘビが言うと
「そうなのかい?ぼくには見えないけど、この海はやっぱり好きだよ」と竜は言いました
「ぼくは生まれたときから目が見えないんだ、でもこの海がとても綺麗だというのはわかるよ
ずっとずーっとここいたんだ、昔は仲間もたくさんいてね、みんなやさしかった
みんなぼくを大事にしてくれたし、ぼくもみんなが大好きだった
みんなこの海が大好きだったし、この海が綺麗だと言っていた
ぼくは目は見えないけど、でもわかるよ。あったかいのはわかるよ」
竜は嬉しそうにそう話しました、とても嬉しそうでした
「仲間たちはどこにいるんだい?」とヘビが尋ねると、竜は
「みんないつからか少しずつここからいなくなっていったんだ。
いつのまにかわからないうちに、少しずつ数が減っていったんだ。
数が少なくなるとみんなぼくの心配をしてくれていた。
ぼくはさびしい気持ちもあったけど、みんながぼくを大事にしてくれているのはわかってたから
やっぱり幸せだったし、みんなのことも大好きだった。
ぼく以外で最後にいたのは妹だった、妹はぼくのことをとても心配していたけど
ぼくはそんな妹が不安にならないように、大丈夫だよといつも頬ずりしてあげてた。
いつかしら妹もいなくなって、この海にぼくだけになったんだ。
みんながどこにいったかわからないけど、妹もどこにいったのかわからないけど
みんなが今も幸せでいてほしいといつもお祈りしてるよ」
ヘビは、少し考えているようでした
彼はそれを聞いて、この海みたいにとても静かだとなぜか思いました
ヘビは「竜よ、きみは君をおいていなくなった仲間の幸せを祈れるのだね」
と聞きました
竜は、「うん!」と、とても幸せそうな顔で笑いました
「みんなぼくのことが大好きだった、ぼくもみんなが大好きだよ」
と、とてもとてもとても幸せそうでした
「いつかみんなが帰ってくるかもしれないから、ぼくは待っていないと。
ぼくがここにいなかったらみんな心配してしまうからね。
もし帰ってこなかったとしても、やっぱり待っていないと。
ぼくが待っていないと知ったら、みんなきっとさびしがるから。」
ヘビはぎゅっと目をつむっていました
彼は竜の話を聞きながら竜の背に耳をあてていました
竜の心臓の音がとてもここちよくて彼は眠ってしまいそうでした
彼は自分は竜のことが好きなんだなぁ、と思いました

しばらく潜っていると光り輝いていた海中も少しずつ暗くなり
潜る先に海の底が見えてきました
海の底は白い砂が一面にあり、その一面の白を切り裂くように大きな切れ間がありました
竜は彼を乗せたままその切れ間に向かってどんどんもぐっていきました
切れ間はどんどん大きくなり、近くまでくるとその切れ間は
竜の体は何十頭も並べるほどの大きな大きな大渓谷でした
「どこまで行くんだ?」とヘビは尋ねました
「この切れ間の先だよ、そこに洞窟があってみんなそこに行ってその先に行くんだ。」
竜はそう言うと切れ間をさらにもぐっていきます
海底の大渓谷をゆっくり潜っていくと彼とヘビはその渓谷の壁に白いトゲのようなものを見ました
見るとところどころに白いトゲや棒のようなものや石のようなものが見えました
それは潜れば潜るほど少しずつ増えていっているように見えました
そこにあったのは無数の竜の骨でした
渓谷の壁に埋まっている骨、埋まらずに散乱している骨、すべて竜の骨でした
竜は潜り続け渓谷の底が見えると、そこは骨で埋め尽くされた竜の墓場でした
彼とヘビは竜の背に乗りながら、ただそれを無言で見つめていました

竜は渓谷の底を抜けちょうど竜が入れるくらいの洞窟に入りました
中は真っ暗で何も見えませんが、竜はなんでもないように進んでいきました
しばらくすると洞窟は上のほうへ伸び、竜は海面に出ました
長いようで短かった海中の旅は終わり、彼とヘビはまっくらな洞窟の中にある空間に出ました
洞窟は暗く何も見えません、そこに彼とヘビは降りました
竜は真っ暗な洞窟の中で彼を見つめていました
彼も真っ暗な洞窟の中で竜を見つめていました
彼は竜にありがとうと言い、竜をじっと見つめていました
「みんなこの先にいったよ、でもきっとみんなそれぞれの行く場所はちがうんだろうね」
竜はそう言うと長い首を折り曲げて自分の額を彼の額にゆっくりとつけました
彼は目を閉じて心の中で竜のことを思いました
真っ暗で静かな洞窟の中で彼は竜だけに思いを集めました
静かな中、一瞬ザーっと風が抜けるような音が体のまわりを突き抜けたと感じたとき
強い光が目の前で輝いたと思うと、彼は自分がたくさんの愛する仲間と家族と一緒にいる
そんな幸せな気持ちが津波のようにおそってきて圧倒されました
息もつけないほど、言葉にならないほど、強烈な閃光のようでした
はっとして目を開けると、そこは真っ暗な洞窟で彼は竜の額から自分の額を離していました
彼は泣いていました
「いってらっしゃい」そう言うと、竜はしずかに沈んでいきました

彼は呆然と真っ暗な洞窟を見つめていました
ヘビがするすると彼の体をのぼって首にまきついてから
「今日わたしたちが出会ったもの、あれは愛だ。」
ヘビはそう言いました
「多分わたしよりも君の方がよくわかってるだろうがね」
ヘビはそう言うと頭を彼の肩の上に寝かせ目をつむりました
彼はゆっくりと振り返り、洞窟の奥へと進みはじめました

彼は彼女のことを心に思い描いていました
今、彼女の心が安らいでいるようにとそう祈ったあと
また真っ暗な洞窟を歩きはじめました






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