おとぎ話「ゆきおおかみ少年」

むかしむかしのお話

とある雪山の中に一人の少年がいました
雪は一面に積もり、木々にも積もっていました
その夜はとても夜空が綺麗で、風も無い夜でした
少年は雪の上に一人でいました

うしろを振り返ると
ずうっと遠くに小屋の窓から漏れたような明かりが見えました
明かりはとても暖かそうでしたが
少年はそこに行きたいとは思いませんでした

少年はぽつりぽつりと歩きました
木々のゆるりとしたざわめきが心地よく
雪も冷たくありません
星空は満天で綺麗すぎて声も出ないほどでした
そこをぽつりぽつりと歩くだけで
少年は胸いっぱいになる思いがしました

星空がせまってくるような、吸い込まれるような
どっちが右か左かもわからくなるような
地面と星空の間に何も無いような
不思議な心地よさでした

少年はいつのまにか小さな穴の中でうずくまっていました
雪が暖かくとても幸せな気持ちで少年は眠ってしまいました
そこに朝はありませんでした
そこはずっと夜だったのです


それから長い月日がたち

彼はゆっくり目を覚ましました
彼は青年の姿に成長していました
穴はややせまく感じましたがやはり暖かいものでした
目を外に向けるとそこには朝日がありました
雪山も木々も朝日に照らされ美しくまるで金剛石のように輝き
夜とは違った美しさに彼は声を上げました
木々や空気まで生き生きと脈動しているように思いました
そして朝日に照らされその山から遠くの山までずっと見渡せたのです
彼が見た世界はともて美しいものでした

山の麓の方を見ると集落のようなものが見えました
煙がたち人が生活しているようでした
彼はそこに向かって走り出しました
風のようにおおかみのように木々の間を駆け抜けました
麓に着くと一人の男がまきを割っていました
彼が近づくと男は驚いたあとに訝しげな顔をしました
男は彼に何かを言いましたが彼はそれが何を言っているのかわかりませんでした
彼は身振り手振りで男に訴えましたが男にも彼の言っていることがわかりませんでした
男は訝しげな顔のままどこかへ去っていってしまいました
彼はそこにぽつりと取り残されたまま呆然としていました

それから彼は集落を見て回りました
さっきのように近づかずに遠くで見るだけにしました
たくさんいろんな人がいましたが彼にはみな同じように見えました
そんな中一人の綺麗な女性を彼は見つけました
みんな同じに見える中で彼女だけ違って見えたのです
まるで太陽が彼女を見つめているかと思うほど
彼女は輝いているようでした
彼は彼女をじっと見つめていました、見つめているのが楽しかったからです
そんなとき彼女が彼に気付きました
彼女は手を振り彼に何かを言っているようでした
でも彼はそれが聞き取れずそこにじっとしていました
彼女は彼に少し近づきふところから何かを取り出し彼に見せてきました
まだ遠くてそれがよく見えず、彼はこっそりと彼女に近づいていきました
彼女が持っていたのはチーズの一切れでした
彼はチーズと彼女の顔を交互に見つめました
彼女がとても楽しそうに笑っていたので
彼はそのチーズを受け取り食べました
びっくり!あまりの美味しさに彼はモグモグしながら飛び跳ねました
彼は麓にきてからのこともすっかり忘れ喜び跳ね踊りました
彼を見て彼女はとても楽しそうでした
彼ははじめて食べ物を食べたのです


それからしばらく
彼は彼女に会うのが楽しみでした
他の人にバレないようにいつもこっそり会いにいきました
彼女は病気でしたがたまの元気なときに二人は会いました
他の人の言うことは相変わらずわかりませんでしたが
彼女の言うことはいくつかわかることができました
彼女も彼の言うことをいくつかわかるようでした
木々の話、雪の話、風の話、夜空の話、太陽の話
そういったことは話しました

あるとき二人が話しているところを他の人たちに見つかってしまいました
他の人たちは大きな声で彼を威嚇しているようでしたが
彼には他の人たちが何を言っているのかやはりわかりませんでした
彼女がオロオロとうろたえているのを見て
彼はとても嫌な、嫌な気持ちになりました
彼は他の人たちに対してその嫌な気持ちをめいっぱい向けました
彼の目はギラつき、眉をしかめ、歯をむき出し、体を震わせました
指には力が入り、足は雪を強く踏みしめ今にも飛び出しそうでした
他の人たちはそれ以上近づくことなく侮蔑の顔でそこから去りました
彼はとても悲しい気持ちになりました
こんなことをしたかったわけではなかったからです
彼は彼女の方を見ました
彼女は去っていった他の人たちの方を見ていました

彼女の病気は悪化しました
彼と会うこともほとんどなくなりました
それでもたまに会えるとき彼は嬉しかったのです
でもそのたびに他の人たちとぶつかりました
殴りあったりしてるわけでもないのに
彼はそのたびに傷付いていくような気持ちでした
彼は彼女を連れ去ろうと思うようになりました
でも彼女はそのことを良く思いませんでした
そんなとき彼はいつも彼女の言うことがわからないのでした
なぜわからないのか、そのことがわかりませんでした


ある日彼女がいなくなりました
麓の集落ではないどこかへ行ってしまったようでした
連れて行かれたのではなく、行ってしまったのだと彼はなぜかわかりました
その日の朝、ただ彼は呆然と朝日を見つめているだけでした
他の人達は誰も彼に気をとめなくなりました
彼にはお腹が減った、という感情だけが残りました


彼が彼の夜に帰ることはもうありません
そこに夜はありませんでした
そこはずっと朝だったのです

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック